歯周病は、歯垢(プラーク)の中の細菌が出す毒素によって炎症が起こり、歯を支える歯槽骨が溶ける病気です。歯周病が原因で歯を失うことも少なくありません。
歯周病は自覚症状に乏しく気づきにくいため、普段からの口腔ケアが重要です。しかし、毎日歯磨きを行っていても歯周病になる人もいるでしょう。
この記事では、歯周病を招く原因や予防法について解説します。
歯周病になりやすい人の特徴
歯周病の原因は一つではなく、さまざまな要因が重なって発症します。そのため、歯周病になりやすい人となりにくい人を区別することは簡単ではありません。
生活習慣や体質によって、歯周病の発症リスクが高まることがあります。意識することで改善できる点もあるため、普段から予防に努めましょう。
歯磨きが十分でない
歯周病は、歯垢や歯石の中で繁殖した細菌が原因で発症します。
毎日歯磨きをしていても、ブラッシング方法が正しくなければ歯垢は除去できません。歯と歯肉の境目の清掃が行き届かず歯垢が蓄積すると、細菌が繁殖して歯周病を引き起こす可能性があります。
特に、就寝中は唾液の分泌が減少して口内が乾燥するため、細菌の繁殖が活発になります。就寝前の歯磨きを怠ると、歯周病のリスクが高まるでしょう。
食後の歯磨きを習慣化し、定期検診で歯磨き指導やクリーニングを受けることが大切です。
喫煙習慣がある
日本歯周病学会発表の「歯周病と煙草の関係」によると、ある統計データでは、歯周病の発症率は1日10本以上の喫煙で5.4倍、10年以上の喫煙で4.3倍に上昇し、重症化しやすいといわれています。
タバコの煙には、ニコチンや一酸化炭素などの有害物質が200種類以上含まれており、歯周病だけでなく、ほかの病気を引き起こすことも少なくありません。
有害物質が歯周病のリスクを高める理由は、以下のとおりです。
- 歯茎の血行不良によって、十分な酸素や栄養が歯茎まで届かない
- 歯茎の抵抗力が弱くなり、免疫力が低下して細菌が繁殖しやすくなる
- 有害物質が歯の表面に付着することで、歯垢がつきやすくなる
糖尿病を持っている
歯周病と糖尿病は密接に関係しています。
糖尿病が歯周病の原因になる理由は、以下のとおりです。
- 免疫機能が低下し、細菌が繁殖しやすくなる
- 唾液の分泌量が減少して口内が乾燥しやすく、口内の自浄作用が低下するため、歯垢や歯石が蓄積しやすくなる
歯周病の治療をすることで、インスリン(血糖値を下げるホルモン)が効きにくい体質を改善し、血糖値が低下するという研究結果が報告されています。
歯周病の主な治療は、毎日の歯磨きによるプラークコントロール(歯垢を除去して口内を清潔に保つこと)と、歯科医院での歯石除去です。
歯周病の予防が、糖尿病の予防につながるといえるでしょう。
被せ物が歯に合っていない
被せ物が歯に合っていない場合、歯と被せ物の間に隙間ができるため、その隙間に歯垢がたまりやすくなります。蓄積した歯垢は歯茎に影響を及ぼし、歯肉炎や歯周病を引き起こす可能性があります。
被せ物の隙間にたまった歯垢は歯磨きで除去することが難しいため、定期検診の際は被せ物に問題がないか確認しましょう。
また、歯に合わない被せ物は噛み合わせを悪くします。
噛み合わせが悪いと歯に加わる力が不均衡になるため、歯並びが悪くなります。歯並びが悪くなると、歯ブラシが届きにくい隙間ができて歯垢がたまりやすくなるため、歯周病のリスクが高まるでしょう。
歯並びが悪い
歯並びの悪さが歯周病の原因になる理由は以下のとおりです。
・歯磨きが不十分
歯並びが悪いと歯ブラシがしっかり届かず、歯垢がたまりやすくなります。特に、歯が重なっている部分や歯と歯肉の境目は歯垢がたまりやすいため、歯周病の進行を招きます。
・噛み合わせの悪さによる圧力の偏り
歯並びが悪いと噛み合わせが悪くなるため、特定の歯に偏って力が加わり、歯茎や歯槽骨に負担がかかります。その結果、炎症が起こって歯周病のリスクが高まります。
歯並びが悪い場合は、歯列矯正による治療を視野に入れるとよいでしょう。
歯ぎしり・食いしばりの癖がある
歯ぎしりや食いしばりといった噛み癖は、歯周病の進行を早める要因になります。
噛み癖によって、歯周病で炎症が生じている歯茎に強い力が加わり、炎症を悪化させます。
また、歯が揺らされて歯周ポケット(歯と歯茎の隙間)が深くなるため、汚れや細菌が侵入しやすくなるでしょう。歯周ポケット内に歯石ができると、歯周病のリスクが高まります。
噛み癖は、歯周病だけでなく歯並びや噛み合わせにも影響を及ぼします。
無意識に行うことがほとんどであるため、マウスピースの使用など適切な処置を受けて対策しましょう。
口呼吸になっている
口呼吸になると唾液の分泌が減少するため、口内が乾燥しやすい状態になります。
唾液のはたらきには、細菌の活動を抑える「抗菌作用」や、口内の細菌や汚れを洗い流す「自浄作用」があります。
唾液の分泌が減少すると、細菌や汚れの除去が追いつかず歯垢や歯石になり、歯周病の発症リスクが高まるでしょう。
口呼吸は歯周病だけでなく、口臭や歯並びの悪化を引き起こす原因にもなるため、改善が必要です。
口呼吸の改善方法として、口呼吸から鼻呼吸に改善する「あいうべ体操」があります。舌力がついて自然に口が閉じるようになるため、口呼吸の人は継続して行うとよいでしょう。
過度のストレスを抱えている
ストレスが歯周病の原因になる理由は、以下のとおりです。
- 唾液の分泌が減少し、口腔内の衛生状態が悪化する
- ストレスで起こる歯ぎしりによって、歯茎や歯槽骨に負担がかかる
- 自律神経が乱れ、免疫力や睡眠の質が低下する
また、ストレスによる歯周病の予防には、以下の方法が効果的です。
- 十分な休息、睡眠をとる
- 自分に合ったストレス解消法を取り入れる
- バランスのよい食事、適度な運動で自律神経を整える
- 正しい歯磨き方法で口腔ケアを行う
- 定期検診を受ける
薬の副作用の影響がある
薬の副作用によって、歯肉が腫れる「薬物性歯肉肥大」が起こることがあります。
歯肉肥大が起こると歯周ポケットが深くなり、歯と歯肉の境目の清掃が行き届かず歯周病のリスクが高まります。
<歯肉肥大の副作用がある代表的な薬>
- 抗てんかん薬:フェニトイン
- 高血圧治療薬:アムロジピン、ニフェジピンなどのカルシウム拮抗薬
- 免疫抑制剤:シクロスポリン
歯肉肥大が進行すると歯が完全に隠れてしまい、歯肉の切除が必要になることもあります。
また、歯垢の蓄積は歯肉肥大の悪化を招くため、毎日の歯磨きを徹底し、定期的に歯科医院で診療を受けるようにしましょう。
遺伝的な要因がある
歯周病そのものは遺伝しませんが、歯周病になりやすい体質は遺伝する可能性があります。
遺伝的な要因が歯周病に関係する理由は、以下のとおりです。
・免疫反応の違い
免疫反応は遺伝によって異なるため、歯周病菌に対する抵抗力には個人差があります。そのため、人によっては歯周病の発症リスクが高くなります。
・細胞の再生能力
遺伝的に細胞の再生能力が低い場合、歯茎や歯槽骨の修復が追いつかず、歯周病を進行させることがあります。
・炎症反応
遺伝的に炎症反応が起こりやすい場合、歯周病が重症化しやすくなります。
遺伝的な要因がある場合は、徹底した歯磨きや定期検診、規則正しい生活を心がけましょう。
妊娠している
妊娠中にかかる歯周病は「妊娠性歯肉炎」と呼ばれます。
妊娠中に歯周病になりやすい理由は以下のとおりです。
- つわりで十分な歯磨きができない
- 歯周病菌の増殖を促す作用をもつ女性ホルモンの分泌が増える
- 食生活が不規則になる
つわりの時期は、歯ブラシを口に入れただけで吐き気を感じることも少なくありません。
以下のように口腔ケアの工夫をして、無理のない範囲で歯周病を防ぎましょう。
- 小さい歯ブラシ、歯間ブラシ、フロスを使用する
- 歯磨きは食後にこだわらず、体調や気分が落ち着いたときに行う
- 歯磨き粉をつけない
- 洗口液や水でぶくぶくうがいをする
定期検診を受けていない
歯周病は、自覚症状がほとんどなく病気の存在に気づきにくいため、重症化してから治療するケースも少なくありません。
定期検診を受けていない場合、症状が進行して根管治療や抜歯といった大掛かりな治療が必要になる可能性があります。治療期間や通院回数が増え、治療費もかかるため、患者にとって負担になるでしょう。
定期検診の頻度は口腔内の状態によって異なりますが、3~6ヶ月に1回程度が目安です。自身で取り除けない歯垢や歯石のクリーニングを行い、口腔内を清潔にします。
定期検診は歯周病の予防や早期発見、早期治療につながるため、必ず受けるようにしましょう。
歯周病になりやすい人が抱えるリスク
歯周病は、歯だけでなく全身にも影響を及ぼし、さまざまな全身疾患を引き起こす原因になります。
歯周病を予防することは、歯を失うリスクを軽減するとともに、全身の生活習慣病を予防することにもつながります。
毎日の歯磨きと定期的なクリーニングで口腔ケアを行い、口内環境を清潔に保ちましょう。
歯の喪失
歯を失う原因のほとんどは、虫歯と歯周病です。
今までの疫学研究より、喪失するリスクが高い歯として「歯周疾患が進行している歯」が挙げられています。
歯周病は自覚症状がほとんどないため、重度に進行した時点で気づくケースも少なくありません。重症化して歯がぐらついたときには、歯槽骨が溶けた状態まで進行しています。
溶けた歯槽骨は自然に元に戻ることはありません。 歯周病治療を行い、歯の脱落や抜歯を防ぐ必要があります。
自身の歯を残すためにも、定期検診での予防処置や早期発見が非常に重要です。
心血管疾患
歯周病菌は炎症を起こした歯茎から血管内に侵入し、身体全体に広がります。
身体の中に入った歯周病菌は毒素を作り出し、動脈硬化を引き起こす要因になることがわかってきました。
動脈硬化とは血管が硬くなり、血管内にプラーク(粥状の脂肪性沈着物)ができて狭くなった状態のことです。剥がれたプラークが血管に詰まって心筋に血液が送られなくなり、心筋梗塞を引き起こします。
心筋梗塞は、死に至ることも少なくありません。
歯周病予防は心筋梗塞の予防につながるため、普段からの口腔ケアが大切です。
糖尿病の悪化
歯周病菌が歯茎から血管内に侵入した際、体内ではサイトカイン(免疫反応を調整する物質)が分泌され、歯周病菌に対抗します。
サイトカインは、血糖値を下げるホルモンであるインスリンのはたらきを抑えて「インスリン抵抗性(インスリンが効きにくい状態)」を引き起こします。
糖尿病の人が歯周病になると、インスリン抵抗性によって血糖コントロールができなくなるため、糖尿病の悪化を招くでしょう。
また、歯周病で歯を失った場合、硬い物が食べられず、やわらかい食べ物が中心になってよく噛まずに飲み込むようになります。早食いは、食後に血糖値が急激に上昇する食後高血糖を引き起こすでしょう。
このように、歯周病は糖尿病に悪影響を及ぼすことがわかっています。
全身の炎症レベルが上がる
歯周病による慢性的な炎症が持続することで、炎症性物質が歯肉の血管から全身に広がります。全身の炎症は、糖尿病、心筋梗塞、脳梗塞、早産や低体重児出産などのさまざまな病気を引き起こすことも少なくありません。
全身で炎症反応が起こると、CRP値(C反応性たんぱく質の数値)が上昇することがあります。
CRP値とは、体内で細胞や組織が壊れ、炎症反応が起きているときに増加します。CRP値の上昇によって、歯周病が全身の炎症状態に影響していることがわかるでしょう。
CRP値の上昇は、全身疾患のリスクの指標として使用されることがあります。
歯周病を予防する方法
歯周病の予防には、自身によるセルフケアと、歯科医師や歯科衛生士によるプロフェッショナルケアに大きく分かれます。
歯周ポケットに入り込んだ汚れは歯磨きで取り除くことが難しく、無理に取ろうとすると歯茎を傷つけることもあります。そのため、セルフケアとプロフェッショナルケアはどちらも重要です。
歯周病予防としてセルフケアだけでなく、プロフェッショナルケアも取り入れましょう。
毎日のセルフケアを徹底する
セルフケアでは、毎日の歯磨きによるプラークコントロールが基本です。
適切な歯磨きとともに、歯周病のリスク要因になる生活習慣も見直しましょう。
<セルフケアのポイント>
- 適切な歯ブラシを選ぶ
- 歯科医院で正しい磨き方の指導を受ける
- 歯間ブラシ、部分磨き専用歯ブラシ、フロスを使用する
- 喫煙習慣がある場合は禁煙する
- よく噛む(歯周病のリスク因子である肥満防止)
- 栄養バランスのよい食事を心がけ、食生活の乱れを改善する
- ストレスをためない
食生活や生活習慣の改善
歯周病と生活習慣病は相互に影響を及ぼすため、歯周病予防には生活習慣の改善が重要です。
具体的には、食生活の乱れ、運動不足、睡眠不足、喫煙、ストレスなどの改善が必要です。
食生活の乱れを改善するには、抗酸化作用があるビタミンC、E、カロテンが豊富な野菜や果物を取り入れましょう。また、歯や骨の材料になるカルシウムやマグネシウムも重要です。バランスのよい食事を心がけ、 糖分の摂りすぎは控えることが大切です。
運動不足の場合は、毎日、今より10分多く身体を動かすことを意識しましょう。
睡眠不足の場合は、睡眠時間の長さよりも眠りの質が重要です。規則正しい生活を意識し、睡眠のリズムを整えましょう。
定期的にメンテナンスを受ける
定期検診を受けることで歯周病の予防と早期発見が可能になるため、健康な歯を長く残せるでしょう。
定期検診では、一般的に以下のことが行われます。
- 歯茎の検査をして歯周病の有無と進行を調べる
- 正しい歯磨き方法を指導する
- 専門的なクリーニングによって歯の表面に付着した歯垢と歯石の除去を行う
- フッ素を塗布する
毎日の歯磨きは歯周病予防に効果的ですが、自身で取り除けない歯垢や歯石の除去は、専門的なクリーニングが必要になります。
定期的に歯科医院でチェックを受けることで、歯周病のリスクを大幅に軽減できるでしょう。
歯周病に関するよくある質問
「歯周病を防ぐためにできることは何か?」
歯周病は気づかないうちに進行するケースも少なくないため、このような疑問を抱える人もいるでしょう。
ここでは、歯周病の予防や早期発見において押さえるべきポイントを解説します。
歯周病は見た目でわかる?
歯周病は、歯の周りの組織である歯茎や歯槽骨が侵される病気です。
歯槽骨はレントゲン検査をしなければ状態がわからないため、歯と歯茎の状態を観察することが重要です。
以下のような症状がある場合は歯周病が疑われるため、速やかに歯科医院を受診しましょう。
- 歯茎がピンクではなく赤く腫れている
- 歯茎を触ると痛みやブヨブヨとした感触がある
- 歯茎から膿が出る
- 歯磨きや硬い物を食べた際、歯肉から出血する
- 歯が長くなったように見える
- 歯茎が下がって歯と歯の間に隙間ができ、食べ物が詰まりやすくなった
- 歯がグラグラと揺れる
- 歯並びが変わった
歯周病菌は何に弱いですか?
歯周病菌は、酸素がない状態で増殖する「嫌気性菌」です。
その名のとおり「空気を嫌う菌」であり、空気が存在するところでは生きられません。そのため、空気に触れにくい歯周ポケットを好んで住みつきます。
健康な人の歯周ポケットの深さは2~3mmと浅いため、歯周病菌は定着できません。
しかし、歯茎が炎症を起こした場合は歯周ポケットの深さが4~5mmと深くなるため、歯周病菌が住みつきやすくなり、歯周病が進行します。
歯周病予防には、以下に示す歯周ポケットのケアが重要です。
- 毎日の歯磨き
- 歯間ブラシ・フロスの使用
- 定期検診でのクリーニング
まとめ
歯周病の原因はさまざまで、発症リスクを高める生活習慣や体質があります。
歯周病は初期段階で気づくことが難しいため、普段から自分の歯の状態を把握しましょう。
歯周病は口内の問題だけでなく、全身の病気のきっかけになることがあるため、予防や早期発見が大切です。
歯周病の発症や進行を防ぐために、毎日の正しい歯磨きと、定期的な歯科医院の受診を心がけましょう。
歯周病の治療を検討されている方は、宝塚南口駅の歯医者「宝塚歯科エイチアンドエル」にお気軽にご相談ください。
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