歯列矯正の治療方法は「着脱式のマウスピース矯正」と「固定式のワイヤー矯正」の2種類に大きく分かれます。
それぞれの治療法にはメリットとデメリットがあるため、どちらを選択すべきか迷う人は少なくありません。
治療法によって適応症例が異なるため、診断によっては希望の治療法が選択できないこともあるでしょう。
この記事では、自分に合った治療法を選択できるよう、それぞれの治療法の違いについて解説します。
マウスピース矯正とワイヤー矯正はどっちがいい?
マウスピース矯正とワイヤー矯正には、それぞれ特徴があります。矯正治療の後は保定期間もあるため、指示を守って継続できる治療法を選択することが大切です。
カウンセリングの際は歯科医師とよく相談し、症状だけでなく、自分のライフスタイルも考慮して治療を選択するとよいでしょう。
マウスピース矯正がおすすめの人
マウスピース矯正は、透明で非金属のプラスチック素材でできたマウスピース型矯正装置を装着し、歯を動かす治療法です。
見た目の問題や金属アレルギーが心配な人でも、安心して治療できます。
ただし、適応症例が限定されることや、食事や歯磨きの際はマウスピースを取り外すため、自己管理の重要性を考慮して検討しましょう。
矯正を目立たせたくない
矯正治療を検討している人のなかには、見た目の問題でなかなか治療に踏み切れない人もいるでしょう。
マウスピース矯正のメリットの一つとして「目立ちにくいこと」が挙げられます。
特に、インビザライン(アメリカのアライン・テクノロジー社が開発したマウスピース型矯正治療法)のマウスピースは、薄くて透明性が高いプラスチック素材で作られています。そのため、ほかのマウスピース矯正やワイヤー矯正と比べて目立ちにくく、周囲から気づかれることはほとんどありません。
接客業や営業職など、人と接する職種の人でも安心して治療ができるでしょう。
食事を楽しみたい
マウスピース矯正は、食事の際にマウスピースを取り外すため、治療前と同じように食事を楽しめます。
ただし、装着を忘れて時間が経過してしまうと歯が治療した計画通りに動かず、治療の効果が得られません。
装着忘れや長時間の飲み会などによる「装着時間の不足」を避けるために、以下の点に注意して食事を楽しみましょう。
- マウスピースは食事の直前まで装着する
- 食後は口腔内ケアを徹底し、速やかにマウスピースを装着する
- マウスピースを外した際は必ず専用のケースで保管し、紛失や破損のリスクを防ぐ
違和感や痛みが苦手
矯正治療では、歯を動かす際に歯周組織に圧力がかかるため、痛みを伴うことがあります。そのため、大きな力を加えて歯を動かした場合は、強い痛みを感じるでしょう。
しかし、マウスピース矯正は、弱い力で少しずつ歯を動かすため、痛みを感じにくいです。違和感や痛みが不安な人におすすめの治療法です。
例えば、インビザラインは歯根膜(歯根と歯を支える歯槽骨の間にある薄い膜)に負担をかけない程度の弱い力で歯を動かすため、痛みを感じることはほとんどありません。
インビザラインのほかにも、マウスピース矯正にはさまざまな種類があるため、歯科医師と相談して検討するとよいでしょう。
金属アレルギーが気になる
金属アレルギーとは、金属に触れた際に痒みや発疹を引き起こす皮膚炎のことです。
一般的なワイヤー矯正で使用する装置には、ステンレス合金、コバルト、クロム、ニッケルといった金属が含まれています。これらの金属は金属アレルギーを起こしやすい傾向があるため、金属アレルギーがある場合は、ワイヤー矯正は避けた方がよいでしょう。
重度の金属アレルギーの人や、金属アレルギーが心配な人は、装置に金属を含まないマウスピース矯正がおすすめです。
また、金属アレルギーが心配な場合は、事前に金属パッチテストを受けるとよいでしょう。金属パッチテストを受けることで、アレルギーを起こす金属の種類を把握できます。
ワイヤー矯正がおすすめの人
ワイヤー矯正は、歯にブラケットという矯正器具を装着し、ブラケットにワイヤーを通すことで歯に力を加え、歯を動かします。
ワイヤー矯正は適応症例が幅広いため、マウスピース矯正では治療が難しい歯列不正にも対応できるでしょう。
複雑な歯列不正がある
ワイヤー矯正は、歯に加える力の方向や強さを細かく調整できるため、適切な位置に歯を移動できます。そのため、歯が重なり合っている症例や、過蓋咬合などの複雑な歯列不正にも幅広く対応できる特徴があります。
装置の取り外しができないため歯には常に力が加わり、確実な効果が期待できるでしょう。ワイヤー矯正の種類は、表側矯正と裏側矯正の2つに大きく分かれます。
表側矯正は、歯の表側に装置をつけるため治療がしやすく、重度の歯列不正にも対応できます。
一方、裏側矯正は、歯の裏側に装置をつけるため装置の調整が複雑であり、症状の程度によっては治療が難しいかもしれません。
自己管理が苦手
ワイヤー矯正は、装置の調整や取り外しは歯科医院で行います。そのため、自己管理できる自信がない人や、管理が難しい子どもなどに適した治療法といえるでしょう。
一方、マウスピース矯正は、食事や歯磨きをするたびにマウスピースを着脱するため、装着時間や保管方法などに注意が必要です。
ただし、ワイヤー矯正でもある程度の自己管理は必要です。食事の際は歯につきやすいものを避けたり、歯磨きの際は装置と歯の間を丁寧にブラッシングしたりするなど、歯科医師の指示を守ることが大切です。
治療期間を短縮したい
治療期間は症例によって異なりますが、同程度の症状の場合は、一般的にワイヤー矯正の方がマウスピース矯正よりも治療期間が短い傾向があります。
ワイヤー矯正は、歯に強い力を加えて歯を大きく移動できるため、治療が比較的早く進みます。
一方、マウスピース矯正は、歯に弱い力を加えて少しずつ歯を動かすため、ワイヤー矯正よりも治療期間が長くなることが多いでしょう。
また、ワイヤー矯正には、表側矯正と裏側矯正があり、それぞれの治療期間が異なります。基本的には、表側矯正は、装置の位置が前面にあり調整がしやすいため、治療期間は短くなります。
裏側矯正は治療の難易度が高く、オーダーメイドの装置を製作するため、治療期間は長くなるでしょう。
マウスピース矯正とワイヤー矯正の比較
マウスピース矯正とワイヤー矯正にはそれぞれ異なる特徴があり、適応症例や日常生活への影響など、さまざまな点で違いがあります。
2つの治療法の違いや、メリット、デメリットを理解することで、より自分に適した治療法を選択しやすくなるでしょう。
見た目
ワイヤー矯正でも裏側矯正の場合は、装置が外から見えません。しかし、表側矯正の場合は、金属製のワイヤーとブラケットが目立ちます。口を開けたときは、矯正していることが一目でわかるでしょう。
ただし、銀色のワイヤーを白色に加工したホワイトワイヤーや、透明なブラケットを選択することで目立ちにくくなります。ワイヤー矯正を検討していて見た目が気になる場合は、カウンセリングの際に相談するとよいでしょう。
一方、マウスピース矯正の魅力は、見た目が目立ちにくいことです。薄くて透明なマウスピースは周囲に気づかれにくいため、自然な会話ができるでしょう。
仕上がり
基本的には、マウスピース矯正とワイヤー矯正のどちらを選択しても、仕上がりに大きな差はありません。
ただし、2つの治療法は適応症例の範囲が異なります。そのため、症状の程度や治療法によっては治療に限界があり、矯正治療後の歯並びに違いが生じるかもしれません。
複雑な症例や歯並び全体を細部までこだわって整える必要がある場合は、細かな調整ができるワイヤー矯正が適しているでしょう。
治療法を選択する際は、求める仕上がりの程度を明確にし、自分の希望を歯科医師に伝えることが大切です。
歯磨き
マウスピース矯正は、歯磨きの際にマウスピースを取り外せるため、治療前と同じように歯磨きができます。
一方、ワイヤー矯正は、装置の取り外しができないため、歯磨きの際は工夫が必要になります。
歯とワイヤーの間には汚れや食べかすがたまりやすく、磨き残しが発生することも少なくありません。虫歯や歯周病のリスクを防ぐために、ワイヤー矯正中は以下のポイントを押さえて歯磨きを行うとよいでしょう。
- 食後の歯磨きを徹底して行う
- 矯正用歯ブラシ、補助用具(タフトブラシ・歯間ブラシ・フロス)を活用する
- フッ素含有の歯磨き粉や洗口液を使用する
- 鏡で確認しながら磨く
対応できる症例
マウスピース矯正は、歯の平行移動が苦手なため、適応症例が限られています。マウスピース矯正で治療できる症例は、以下のとおりです。
- 軽度から中度の歯列不正(隙間がある歯、軽度の出っ歯など)
- ある程度歯列が整っていて、わずかな調整が必要な場合
一方、ワイヤー矯正は、歯を大きく動かせるため、幅広い症例に対応できます。そのため、以下のような重度の症例も治療できるでしょう。
- 歯の重なりが大きい歯列不正
- 重度の出っ歯や過蓋咬合(噛み合わせが深い状態)
- 開咬(奥歯で噛んでも前歯が噛み合わない不正咬合)や下顎の後退など骨格が関係する歯並び
複雑な歯列不正の診断を受け、マウスピース矯正で治療が難しいケースでは、ワイヤー矯正を検討するとよいでしょう。
矯正期間・通院頻度
矯正期間は歯並びの状態によって異なりますが、平均的な矯正期間は以下のとおりです。
【全体矯正】
マウスピース矯正:2~3年
ワイヤー矯正:1~3年
【部分矯正】
マウスピース矯正:4ヶ月~1年
ワイヤー矯正:3ヶ月~1年
また、平均的な通院頻度は、以下のとおりです。
マウスピース矯正:最初は1ヶ月に1回、その後は2~3ヶ月に1回
ワイヤー矯正:1ヶ月に1回
マウスピース矯正は、ワイヤー矯正よりも矯正期間が長い傾向にありますが、通院回数は少なくて済みます。忙しくて時間が取れない人は、マウスピース矯正が向いているかもしれません。
治療費の目安
矯正治療は保険が適用されないため、治療費は症状の程度や歯科医院によって異なります。
それぞれの治療法の治療費の目安は、以下のとおりです。
【マウスピース矯正】
全体矯正:60万円〜100万円
部分矯正:10万円〜60万円
治療費は、マウスピースのブランドや、使用するマウスピースの枚数などによって変動します。
【ワイヤー矯正】
・表側矯正
全体矯正:60万円〜130万円
部分矯正:30万円〜60万円
・裏側矯正
全体矯正:100万円〜170万円
部分矯正:40万円〜70万円
裏側矯正は治療が複雑なため、専門的な技術が必要です。また、オーダーメイドで矯正装置を製作するため、表側矯正よりも費用が高くなります。
矯正中の痛みや違和感
矯正中の痛みには個人差がありますが、一般的にはワイヤー矯正の方がマウスピース矯正に比べて歯に加わる力が強いため、痛みを感じやすいです。
また、ワイヤー矯正は、矯正器具が口内に当たって傷や口内炎ができたり、食事でものを噛んだ際に痛みを感じたりすることもあります。
一方、マウスピース矯正は、歯をゆっくり動かすため痛みが少なく、口内に傷がつくといった心配もありません。食事の際はマウスピースを取り外すため、痛みを気にせず食事を楽しめるでしょう。
ただし、歯並びと一致しないマウスピースを使用した場合は、強い痛みや違和感を生じます。歯科医師の指示にしたがってマウスピースを交換することが大切です。
食事の注意点
マウスピース矯正の場合、食事の際は必ずマウスピースを外しましょう。外さずに食事をしてしまうと、マウスピースの破損や着色につながる可能性があります。
一方、ワイヤー矯正の場合、歯と装置の間に残りやすい食べ物は注意が必要です。虫歯や歯周病のリスクを防ぐため、以下のような食べ物はできるだけ控えましょう。
- 硬い食べ物
- 粘り気のある食べ物
- 挟まりやすい食べ物
- 着色しやすい食べ物(ワイヤーを固定する白や透明のゴ厶の着色が気になる場合)
どちらの治療法も必ず食後の歯磨きを行い、口腔内の清潔を保ちましょう。
自己管理
マウスピース矯正の場合は、自己管理が非常に重要です。
基本的には、食事と歯磨き以外の時間(1日20時間以上)はマウスピースを装着します。装着時間の不足は治療期間の延長を招くため、忘れずに装着しましょう。
また、取り外した際に専用のケースで保管せず、破損や紛失につながることも少なくありません。破損や紛失によってマウスピースの作り直しが必要になると、治療期間が長引いてしまいます。
一方、ワイヤー矯正の場合は自己管理の必要性が低く、着脱によるトラブルの心配はありません。
矯正治療、保定期間ともに治療期間が長いため、自己管理の継続が難しい人はワイヤー矯正が向いているでしょう。
どっちにすべきか迷ったときの判断基準
矯正治療は長期にわたるため「治療を継続できるかどうか」を考慮して治療法を選択することが大切です。
2つの治療法にはさまざまな違いがあります。特に、通院頻度、治療費、口腔ケア、ライフスタイルへの影響を重視することで、自分に適した治療法を選択できるでしょう。
通院頻度
一般的に、マウスピース矯正はワイヤー矯正に比べて通院頻度が低いため、忙しい人や頻繁な通院が難しい人でも無理なく治療できるでしょう。
ワイヤー矯正は、数週間ごとに装置の調整を行うため、1ヶ月に1回は通院する必要があります。
それに対し、マウスピース矯正は、最初は1ヶ月に1回、その後は2〜3ヶ月に1回の通院に減るため、患者の負担は少ないでしょう。
マウスピース矯正の通院頻度が低い理由は、以下のとおりです。
- 複数枚のマウスピースを受け取り自分で交換する
- 歯を少しずつ移動できるように設計されており頻繁な調整が不要
治療費が予算内か
治療費は症状の程度、装置の種類などによって異なりますが、基本的にマウスピース矯正の方がワイヤー矯正より低予算で治療できます。
ワイヤー矯正は、定期的に調整料がかかります。一方、マウスピース矯正は自分でマウスピースを交換するため、調整料はかかりません。また、通院回数が少ないため、通院費も抑えられるでしょう。
ただし、マウスピース矯正は自己管理が不可欠です。マウスピースの装着時間や交換時期を守らなければ治療が長引き、その分費用がかかるでしょう。
長い治療期間では、トラブルによって治療が長引くことも珍しくありません。治療を開始する前にあらゆるケースを想定し、追加費用も考慮して予算を立てるとよいでしょう。
口腔ケアのしやすさ
マウスピース矯正の場合は、マウスピースを取り外して歯磨きができるため、治療前と変わらない口腔ケアができるでしょう。
一方、ワイヤー矯正の場合は、装置の取り外しができないため、歯と装置の間には歯垢や食べかすがたまりやすいです。そのため、治療前よりも丁寧な歯磨きが必要になります。
歯と装置の間の磨き残しを防ぐには、歯科医院でブラッシング指導を受けるとよいでしょう。適切な歯磨きを行うことで、ワイヤー矯正中でも口腔内の清潔を保つことは可能です。
矯正用歯ブラシや、補助用具(タフトブラシ、歯間ブラシ、フロス)を活用することで、効率的な口腔ケアができるでしょう。
ライフスタイルへの影響
矯正治療は長期にわたるため、日常生活への影響を気にする人も少なくありません。治療法を選択する際は、自分のライフスタイルを考慮するとよいでしょう。
マウスピース矯正は以下の特徴を持つことから、ライフスタイルへの影響が少ない治療法です。
- 見た目が目立たないため、気にせず会話ができる
- 着脱式のため、治療前と変わらず口腔ケアや食事ができる
- 通院回数が少ないため、頻繁な通院が難しい場合でも治療を継続できる
一方、ワイヤー矯正は着脱の手間は省けますが、生活に影響が出ることがあります。
食事では、硬いものや粘り気のあるものなどは避ける必要があります。また、食事をするたびに念入りな歯磨きが必要になるため、口腔ケアに時間がかかるでしょう。
マウスピースとワイヤーで迷ったときによくある質問
重度の症例でも、審美性を求めて「どうにかしてマウスピース矯正で治療できないか?」といった悩みを抱える人もいるでしょう。
また、子どもが治療するケースでは、どちらの治療法が適しているのか判断に迷う保護者も少なくありません。
ここでは、2つの治療法で迷ったときの疑問や悩みを解決します。
マウスピース矯正とワイヤー矯正は併用できる?
歯科医師の診断や患者の希望によっては、マウスピース矯正とワイヤー矯正を併用して治療を進めるケースがあります。
マウスピース矯正だけでは対応できない症例でも、治療の一部をワイヤー矯正と併用することで治療が可能になるかもしれません。
併用すると効果的とされる症例は、以下のとおりです。
- 重度の叢生
- 虫歯や歯周病などで抜歯をして一部の歯がない、もともとの歯の本数が少ない
- 左右に顎がずれている症例
- 上下顎前突(上顎と下顎が正常な位置より前方にある状態)
歯の大きな移動を必要とする症例は、マウスピース矯正だけでは治療が難しいため、ワイヤー矯正での治療が必要になるでしょう。
子どもの矯正はマウスピースとワイヤーどっちがいい?
子どもの矯正治療の場合でも、症状や個人のライフスタイルなどに合わせて治療法を選択できます。
治療法を決める際は「年齢」と「自己管理が可能かどうか」を考慮するとよいでしょう。
マウスピース矯正は痛みや違和感が少ない点から、子どもでも安心して治療できるメリットがあります。
ただし、歯磨きや食事の際の着脱やマウスピースの保管など、自己管理がきちんとできなければ、治療が計画通りに進まない可能性があります。
年齢によっては、幼稚園や学校の給食の際に管理が難しいでしょう。そのため、自己管理が難しい年齢の子どもには、ワイヤー矯正がおすすめです。
まとめ
マウスピース矯正とワイヤー矯正には、メリットとデメリットがあります。
2つの治療法を選択する際は、歯並びの状態だけでなく、ライフスタイルや希望などを考慮するとよいでしょう。
例えば、見た目が気になり、自己管理ができる人はマウスピース矯正がおすすめです。一方、複雑な歯列不正があり、確実な効果を求める人はワイヤー矯正が適しているでしょう。
歯科医院で適切な診療を受け、自分に最適な治療法を選択することが大切です。
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